株式会社RISE 代表取締役 水上公正
私たちが生きるさまざまな空間において、その空間デザインを司っているものとはなんだろうか。部屋の広さ? 家具の統一感? ……さまざまな要因はあれど、「壁紙」というひとつの答えについて今日は深堀りたい。
今回お話を伺ったのは、株式会社RISEの代表取締役・水上公正氏。大手壁紙メーカーへの勤務を経て、2022年に独立。現在は壁紙を軸にアートや伝統工芸を取り入れ、提案から施工・清掃までを一気通貫して行う建材会社として注目を集めている。
水上氏の話を聞いていくと「自分を売る」というキーワードにたどり着く。彼の本音を聞いていこう。
言ったからには、やり切る。その想いで副社長にまで
キャリアスタートである壁紙メーカーでは、副社長にまでのぼり詰めた水上氏。これだけ聞いていれば、「そのまま務めていれば、安泰だったのではないか」という言葉が口をつきそうなものだ。
「ずっと自分のなかで、『人が好き』というキーワードがありました。工業系の学校をずっと選択してきたものの、選んだのは前職での営業の道。未経験でしたが、なぜか営業ならできるという自信があったんです」
「言ったからにはやり切らないと、格好悪いでしょう」と笑う水上氏のバイタリティには、魅せられるものがある。すべて安泰のようにも見えたが、裁量が大きくなるぶん、もっと自分でやりたいという気持ちが出てきたのだという。
その想いをもとに、水上氏はRISEを起こした。
RISEが持つ、3つの強み
前職と変わらず、RISEでは壁紙をメインにやっていきたいと考えた。壁紙をハウスメーカーや企業に売る……。そんな想像しやすい仕事のやり方ももちろん年頭にあった。
しかし水上氏の出した答えは、「やるとしたら、大手と同じことをやっても仕方ない。自分たちしかできないことを考えよう」ということ。
「現在RISEでは、その現場に沿ったストーリーをもとに壁紙を提案、施工、そして清掃までを一気通貫で請け負っています。これが私たちのひとつめの強みです。多くのメーカーさんは『材料を売る』という部分のみを商売にしています。施工や清掃は外部の会社さんに委託していることがほとんどなんですね。私たちは自分たちの商品に最後まで責任を持ちたいから、すべてやらせていただいています」
ふたつめの強みは「提案」にある。カタログから選ぶ壁紙もあれど、現在、水上氏が手掛ける壁紙はアートや伝統工芸などと融合し、その空間をいかに魅せられるかのオーダーメイドに重点を置いているという。
例えば、某外資系ホテルの客室。多くの外国人観光客が集まる高級ホテルでは、ラグジュアリーかつ和の装いが近頃のトレンドだ。水上氏はそこに目をつけ、扇や鶴、富士山といった和のモチーフと、銀箔をふんだんに使用した壁紙を提案し、見事採用された。
そしてもうひとつの強みに、「安全性」がある。水上氏の提案する壁紙は、そのほとんどが「防火認定制度」をクリアしている。そもそもホテル等の壁紙は、この制度をクリアしている必要があるものの、制度基準のクリアはそうそうたやすいものではない。ホテル向けオーダーメイド壁紙というニッチな部分に、水上氏の提案が今、刺さっているのだ。
「この基準を満たしているのは、現在は大手ばかりなんです。ならその基準をクリアした壁紙の提案と、施工~清掃までの一気通貫でやろうと。大手と同じことをやるのではなく、それ以上をやる。これがRISEの強みで、信念です」
「自分を売る」ことが未来への投資
大手を超える挑戦、ホテル等大がかりな仕事への挑戦……。水上氏のビジネスキャリアは、挑戦で構成されているようにも思えた。しかし本人は「ここで営業の力が活きたのかもしれませんね」と話す。
「私自身の営業は、『自分を売る』ということ。前職のメーカー時代から変わらず意識していますね。どんな切り口でもいいから、お相手と楽しく話をさせていただく。プライベートの話でも、なんでもいいんです。そうするとたまに、『水上さんって、何をしている人なんだっけ』と聞かれる。そこでやっと『実は壁紙もやっていまして……』と切り出すんです」
水上氏の仕事は、多くが紹介仕事なのだという。知り合いが知り合いを呼び、そして次の仕事につながる。こうしてアーティストや伝統工芸の職人などともつながっていった。その裏には、「何をしている人なのか」と問われるほどの、水上氏本人の魅力がありそうだ。
「若い頃は異業種交流会に出ていたこともよくありました。名刺を交換し、仕事の話をする。あの時間もとても貴重な時間でしたし、必要な時間だったとも思います。でも、もっと大きな仕事をするには異業種交流会で出会える人から、もう一歩先にいる人――つまり大きな企業の役員や売れっ子デザイナーたちに会っていかなければいけない。そのためには、人を紹介していただく必要がありました」
人を紹介してもらうには、自分を売っていく。回り道のように見えるこの手法は、水上氏にとって最善の道だったのだろう。
次にやりたいのは、海外挑戦と、伝統への挑戦
「今後は海外に出てみたいですね」。水上氏に今後の展望を聞いたときに出てきた言葉だ。先にも述べたように、外資系ホテルや世界的ブランド等の仕事も手掛ける水上氏。ハイブランドが今トレンドとしている「和モダン」に呼応するためにも、今が海外への挑戦のときなのだという。
「私たちが作っている壁紙への親和性が高いという意味で、金箔が好まれるベトナムへの出店は近々考えています。洋装が好まれる欧米系ホテル・ブランドでは銀箔が好まれるのですが、日本では石川県に代表されるように金箔の生産も盛んです。この需要と供給のバランスを考え、まずはベトナムかなと」
もうひとつ、水上氏には夢がある。それは「伝統への教育投資」だ。現在伝統工芸分野も幅広く手掛ける水上氏だが、その現場はなかなか難しい。和紙や箔押しなどの職人は、現在後継者問題にも直面している。
「それ以外にも、職人たちはやはり『職人』だから、それ以外の営業や広報能力等に乏しい方が少なくありません。素晴らしい技術を持っているのに、知られていないから仕事もなくなっていく。私が壁紙として職人さんたちの力をお借りしているからこそ、この技術を後世に残していくことこそが使命だと思っているんです」
日本におけるたしかな技術の数々。これらを「壁紙」というツールを使って、世界に挑戦していく――。RISEと水上氏の挑戦に、今後も注目したい。
執筆:山口真央