オリーブジャパン株式会社 代表取締役 川島 恵 庄司 紗梨加
ことばは話せないけれど、気持ちはきっと、人間以上にわかってくれる。そんな存在があなたにもいるかもしれない。今回は「ペット」に関わるお話だ。
家族として大切な存在なのは当然だが、どうしてもペットに留守を頼まなければならないときがある。飼い主不在中のペットを守る選択肢として、候補にあがるのがペットシッターだ。とはいえ、「知らない人が家に入ってくるのは不安」「本当に鍵を預けていいのだろうか」……そんな不安はつきものの業界でもある。
「安心して、第二の家族のように思えるように」――。そんな想いを教えてくれたのは、ペットシッターサービス「オリーブシッター」を展開するオリーブジャパンの共同代表取締役CEOの川島恵氏、庄司紗梨加氏だ。
二人の話から、今いちど「家族を大切に想う」ことを深掘りしてみよう。
二人でやろう。熱意を注げることをやろう
二人の出会いは、大学時代にまでさかのぼる。もともと別の大学だという二人だったが、知人を通じて知り合い、意気投合。
一緒に資格講座の勉強をしたり、保護猫のボランティア活動をしたりと、学生時代からお互いを高め合える存在だったのだという。
「紗梨加は卒業後証券会社を経て海外へ、私はIT系の会社へ就職しました。やりがいはありましたけど、やっぱり紗梨加と二人でなにかできたらって想いはどこかで持っていて。紗梨加が帰国したタイミングで『一緒になにかやろう』と声を掛けました(川島)」
当時、20代半ば。「会社員を辞めて独立するなんて早いだろう」「二人で共同代表は辞めた方がいい」という声もあったが、「今までの人生も、自ら行動して切り開いてきたので自信があったんです。だから今回も一歩ずつ恵と進んでいきたいという気持ちが勝っていましたね」という庄司氏。
二人でやっていくことは決めた。では、二人で何をやるか。
「私たちはどちらも動物が大好きでした。小さい頃から猫や犬を飼っていましたし、ペットのことなら二人とも熱量をもってやっていける。ユーザー目線も持っているからこそ『私たちが欲しいペットシッターサービス』を作っていこうと決めたんです(庄司)」
本当に欲しかった「家族を任せられる人」を仲間に
今や二人が運営する「オリーブシッター」は、半年先も予約が埋まるほどの人気ぶりだ。「ペットシッター」とネット検索すれば、たくさんの個人経営・フリーのシッターが出てくる時代に、なぜここまでの人気と信頼を持ち続けるのか。
「『知らない人に自宅の鍵を預ける』『家主の不在中に鍵をあけ、室内に入る』。それだけで抵抗感をもたれる方も少なくはないと思います。だから私たちは『第二の家族』になりたいんです(川島氏)」
オリーブシッターの強みはやはり、人。川島氏・庄司氏がそれぞれ「この人なら自分の家族を任せられる」と思えた人しか採用しない。動物を家族に持つ二人の目線から敷かれたハードルは、決して低くない。
「応募が100件あったとして、実際に採用ができるのは3人ほど。さらに入社後も座学をはじめとしたきめ細やかな研修を行います。ペットシッターは一見、誰でもできる簡単なお仕事に思われることがありますが、蓋を開けてみれば“ペットが好き“というだけでは務まらない難しいお仕事なんです。その時その時に応じてペットのお世話を効率的に進めることのできる状況把握能力、幅広いペットの知識やペットとのコミュニケーション能力、飼い主様へのレベルの高いホスピタリティー、そして大切な家族の命をお預かりするという強い責任感。そのどれもがペットシッターには必須だと考えています。(川島氏)」
低くない条件をクリアし、共同代表2人による熱意ある研修を超えた先。実力のあるシッターには、その仕事を長く続けてもらう工夫をしているのも、オリーブシッターの特徴であり、二人の熱い想いのひとつだ。
「まずは指名制度の導入。それから月間MVPや○○週間などの社内キャンペーンを作り、できるだけシッターさんがその仕事でしっかり稼ぎ、続けていける環境を作りたいと心がけています。人気のシッターさんのなかには、月50万円以上を稼ぐ方も。命をお預かりする仕事ですから責任感も伴います。その重みを、しっかり感じていただきたいと思って(川島氏)」
信頼の先にある「じゃあ、これもお願いね」と、命を救う咄嗟の判断
オリーブシッターで扱うのは、飼い主不在中の「ペットのお世話」の枠にとらわれない。サービス展開としては、通いで行うペットシッターのほか、自宅への泊まり込みペットシッター、犬の預かり、しつけ・トレーニング、ペット介護・看護、そしてウエディングペットシッターなど多岐にわたる。
特に最近増えているのが、家事代行とのセット依頼だ。飼い主の不在中、ペットが暮らす家は四六時中快適な状況とはいいがたいだろう。ホコリは溜まっていくし、空調の調整は細かくできるわけではない。
「とはいえ、家事代行サービスを別途頼むと『ペット関係のことはできません』と断られてしまう業者さんも多いんです。床掃除を頼んでいても、ペットの粗相はそのまま手つかずで放置されてしまうなんて話もお客さまから伺います。だから私たちは、ペットのことを第一に考える方のためにも『追加料金なし』での家事代行をしています(庄司氏)」
とことんペットファーストが考えられたオリーブシッター。これまで積み上げられてきた信頼の蓄積があるからこそ「じゃあ、家事もお願いできる?」といった要望が出てくるのだ。
さらに「信頼してもらっているからこそ」という、こんなエピソードを教えてくれた。
「海外旅行に行かれた方のご自宅へペットシッターに伺った、猛暑の日のこと。なにかの誤作動で、室内のエアコンが切れてしまっていて、ペットのワンちゃんが熱中症になってしまっていたことがありました。弊社では『ペットシッター救命士®️』の資格講座や勉強会を定期的に実施しているのですが、当時の担当シッターは咄嗟の判断で冷凍庫をあけ、保冷剤を身体に充て、飼い主さんの許可を待たず病院へ連れていきました。一命をとりとめたワンちゃんでしたが、そのとき『病院へお連れしていいか』などと判断を仰いでいたら……きっと手遅れだったと思います。ペットファーストの私たちだからこそできた判断だったなと、今でも思いますね(庄司氏)」
ペットシッターをあたりまえに。そして働きかけていきたい
「私たちの使命は、ペットシッターを当たり前にすることだと思うんです」と川島氏は話す。
「私自身、ペットシッターを使うことで、お留守番させて「可哀想」ではなく、「お留守番中も楽しい時間を過ごしている」と安心できます。だから、息抜きに旅行も行けるし、それによって仕事も頑張れる。いいことづくめなんです。そしてこの環境を、飼い主さんにも、ペットにも感じてほしい(川島氏)」
そしてもうひとつ、ペットと飼い主の在り方を考える二人だからこそ挑戦していきたいことがあるという。それが、行政への働きかけ。
「残念ながら、ペットの命はまだまだ軽んじられている部分があります。減少傾向とはいいつつもまだ殺処分対象として保健所に持ち込まれることもある。それって『人間の手に負えなくなった』状態が引き起こす事象なんですよね。なら私たちペットシッターに『助けて』と言える環境を作りたい。子育て中に手が足りなくなったら、ベビーシッターを頼ることもありますよね。ペットの場合も同じように外部サービスに頼っていいし、行政の力があればもっと頼りやすくなる。そうすることで、動物を愛するみなさんと、たくさんのペットの幸せにつながると思います」
最後まで、ペットと飼い主を思いやる言葉にあふれた今回の取材。オリーブシッターの存在が、ペットと飼い主の幸せにつながる社会を作るかもしれない。
執筆:山口真央